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垂れ壁(下がり壁)とは?
「たれかべ」、「さがりかべ」は共に建築業界では同じ対象を示すことが多いです。
ただし、建築基準法で仕様が決められている垂れ壁の場合と、見た目で天井からぶら下がっている壁を現場では同じ呼び方をする場合があります。
また、壁と言っても可動するものやパネル、スクリーン形状のものまで様々であり、室内の設えに合わせて設計者が選択することが可能です。
わかりやすく一言で言うと、「たれさがっているかべ」と考えるとどなたでもイメージしやすいのではないでしょうか。
建築基準法の「垂れ壁」
法律上の解釈
建築基準法施行令第126条の2より排煙設備を設けなければならないと規定されています。
第1号で排煙設備の設置が義務付けられ、床面積500㎡ごとに「防煙壁」で区画することになります。
法律上の「防煙壁」とはまさしく「防煙垂れ壁(ぼうえんたれかべ)」のことを指します。
目的・役割
排煙設備で要求される内容は火災等からの避難を主目的とすることが法の趣旨であり、人が建物内から逃げる際に煙の流動を遅延させる、又は遮る役割があります。
そして、防煙区画の一端を担う防煙垂れ壁ですので、建築基準法では仕上げ材として不燃材料以上が要求されます。
実際の防煙垂れ壁は、コンクリート打ち放しの場合や、木材や石膏ボードを下地とする乾式壁など形状や材料も様々です。
仕上げに不燃材料が求められているため、防煙垂れ壁の表面に可燃物の仕上げを貼ることはできません。
形状・寸法
基本的には天井から50cm以上(地下道にあたっては80cm以上)の寸法が定められています。
火災が起きた際に最も避けなければならないのは煙を吸わないことです。
煙は空気より軽く天井に近い方から充満し流動しますので、天井から垂れ下がっている突起があると、そこで時間をかせぐことができます。
身近な建物で垂れ壁を見かけた場合、50cm以上あれば防煙垂れ壁である可能性が高いです。
また、防煙垂れ壁には「固定式」と「可動式」があります。
固定式とは文字通り動かない壁のことで、一般的に最も多いタイプです。
可動式とは、火災など有事の際に煙感知器と連動して天井内に隠れている防煙垂れ壁が降下することで、高さ50cm以上の壁を形成するものです。
可動式の場合、多くはガラスやアクリル製の透明な材料でパネル化されたものやスクリーン状のものが一般的です。
最近では、不燃シートなど超軽量な素材も登場し、地震の際に万が一落下した場合の安全性にも配慮されたものが製品化されています。
設置場所
防煙垂れ壁の設置場所はどこでもいいわけではありません。
排煙区画する場所に必要となり、最もイメージしやすい場所として居室と避難廊下の出入口に天井から高さ50cm以上下向きに下がっている壁があります。
居室の出入口扉を常時閉鎖式(通用から閉まっている扉のこと)とするか、又は不燃扉にすることで高さを30cmまで緩和する規定も告示で定められています。
実務の中では、意匠的にこだわりたい部分を可動式の防煙垂れ壁にすることが多く、通常時は天井内に隠すことができ、天井廻りをすっきり見せることができます。
コスト的には、煙感知器と連動させる必要があることから、可動式を採用するには設備システムを含めて計画をする必要があるため高価になります。
垂れ壁に関する実務上の注意点
防煙垂れ壁は原則天井からの高さが決められていますが、防煙垂れ壁の内側と外側で天井高さが異なる場合、低い方から50cmを確保する必要があります。
設計中には様々な場面で天井高さが変わりますので、防煙垂れ壁として計画する出入口では常に高さのチェックをしながら計画をまとめていく必要があります。
設計者でも意外と忘れがちで、申請機関に図面を提出した際に指摘されることがあります。
法律上の意味合いがない場合の垂れ壁
外壁の垂れ壁
外壁の一部に同形状のものがある場合にも一般的に「垂れ壁」と呼びますが、外部に防煙垂れ壁は存在しないため、防煙ではなく見た目上の垂れ壁ということになります。
構造計画的に必要な場合や、意匠的に設ける場合など計画によります。
類似用語「袖壁」との違い
建築用語の中で「袖壁」と呼ばれる部分があります。
最も一般的なのは、壁の一部が水平に突起した部分を「そでかべ」と呼びます。
それは、構造躯体の場合と石膏ボードなどの乾式壁の場合と様々です。
建築業界の人が、「垂れ壁」と「袖壁」を間違えることはありませんが、一般の方には建築物のどの部分を示しているのかわかりにくく混同されるようです。
意匠的な垂れ壁
垂れ壁にはデザイン意図が含まれたものもあります。
例えば、和室や茶室に入るとき少しお辞儀をしながら敷居を跨いだ経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
特に茶室の場合、出入口の垂れ壁部分が曲線状に形を付けることもあります。
始めて使う方も明確に出入口が判別できるのと同時に、礼儀作法を重んじる茶室では頭を下げて敷居を跨ぐという習わしがあります。
垂れ壁の高さによって空間を仕切ったり、緩やかに繋いだり、出入口をわかりやすく表現したりと、デザイン意図をもって設計される場合もあります。